つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

0037 甘い紅茶の向こうに 【にしゃんた こらむ】

スリランカから日本にやってくる研究者。その滞在中にお世話をすることが、よくあるんですわ。

「スリランカのブレーン」とまで言われている偉い先生がいまして。その名もクレー先生。サバチカル(研究休暇)で日本に来はったんです。ダンディーなおっちゃんって、みんなが口をそろえて言います。

クレー先生が初めて日本に来た日、関西新空港まで迎えに行って、京都の大学へお連れするという役割を申し受けまして。でも、それだけでは終わらんことは、これまでの経験から身に染みてわかってます。

日本って、外国人にとってどんだけ住みにくいか。スリランカでは偉い先生でも、日本ではまるで小学生。ひとりではなにひとつできへん。見ていて可哀想になるぐらい。ちょっとでも離れると、
「にしゃんた君、ちょっと来てくれー」
一日に4~5回は連絡が入ります。

面倒な役回りやけど、これも日本とスリランカへの恩返しやと思ってるんです。

病院にお連れするのも、大事な仕事のひとつ。研究者は年配の方が多いので、病院はコースに組み込まれてます。クレー先生は、糖尿病でしてね。京都伏見の国立病院に糖尿病センターがあるんですけど、そこに連れて行ったんです。

言葉の壁ってやっぱり大きい。病院での通訳ともなると、かなり緊張する。適当なこと言われへんからね。それでもなんとか無事に診察がおわろうとしたときですわ。

「にしゃんた君も、来週受診しなさい。
 あなたは、糖尿病体型です」
って言われたではないですか!

それはそれは、ビビリましたよ。
確かに、運動せーへんようになってから、体はどんどん丸くなってきた。そのくせ、グルメ番組の司会をしたり、毎晩飲み歩いたりして、自分でも太ってきているのは実感してたんです。でも、「糖尿病体型」と言われるとは思いもよりませんでした。

「まだ30才代前半やのに!」って、絶叫してしまいましたわ。

その日の夜、国際電話がありましてね。
かかって来たことありますか? 国際電話。
電話機の表示パネルに、「通知不可能」って出るんです。

これを見た瞬間、「オカンや!」ってわかるんですわ。

近況ってことで、糖尿病体型やと脅かされた話を、オカンに愚痴ったんです。そしたらなんと、僕の両親もどっちも糖尿病やって知らされたんです。またまた、ビックリ。

今日はえらい糖尿病のスリランカ人が多いなぁと思いましてね。調べてみたんです。そしたら、意外な事実がわかりました。

スリランカでは、45歳以上になると、ほとんどの人が糖尿病にかかるらしい。国民病みたいになっているんですわ。

その原因もまた、意外なところにありました。「紅茶」です。

スリランカの紅茶は、世界的に有名です。「セイロンティー」ですよ。聞いたことあるでしょう。もちろん、紅茶そのものは糖尿病には関係ないんやけど、スリランカ式の紅茶の「飲み方」が、よくなかった。

紅茶はもともと、イギリスからもたらされた外来文化。せやけどいまでは、すっかり生活に密着してまして。

一日が始まるのも、一杯の紅茶から。オカンが、砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶を持って、ベッドまで起こしに来てくれるんです。日本のお味噌汁みたいなもんですわ。紅茶を飲まんと、目がさめへん。

ただ、お味噌汁と違うのは、一日中とにかくなんかあったら紅茶を飲むこと。10時にも飲んで、3時にも飲んで……

お客さんにも、紅茶でおもてなし。これがスリランカの文化。常夏の国では、新鮮な葉で入れた甘~い紅茶に優る飲み物はない。

一般的に、外国に輸出されているのは、BOP(ブロークン・オレンジ・ペコー)。地元で飲まれているのは、BOPF(ファニング)。BOPよりも細かくカットされていて、「ダスト」とか、「くず茶」とか言われます。そのせいで、輸出には適さないし、値段も安い。

せやけど、一度でもスリランカでBOPFを飲んだらわかります。味は最高でっせ。日本でアホみたいに高いお金を出して買う、イギリスを経由して、そのうえアフリカ産の葉をブレンドされた時間経ち過ぎの紅茶なんか、お話にならへん。

紅茶は鮮度です!

ちなみにスリランカでは、アイス・ティーみたいな、邪道な飲み方はしません。暑いときこそ、熱い紅茶を飲んだ方が、喉の渇きがぴたっと止まるんです。逆療法ってやつです。

……単に、冷凍施設がなかっただけという説もあるんやけどね。

それではここで、スリランカ式の飲み方を。
ホットにこだわるだけではないですよ。砂糖をたっぷり入れるんです。スプーン3杯は入れる。これが常識。暑い国です。エネルギーの消耗が激しい。砂糖がたっぷり入った一杯の紅茶が、大切なエネルギー源なんですわ。

砂糖なしの紅茶など、紅茶ではないというほどのこだわり。1970年代、スリランカは深刻な砂糖不足に見舞われまして、抗議のデモが起こったくらいですわ。プラカードには、

「唐辛子がなくて、飯が食えるか!
 砂糖がなくて、紅茶が飲めるか!」

砂糖を安定して確保できるかが、選挙の重大な争点になったほどなんです。

スリランカ人は、お客さんをもてなす情熱にかけては、どこの国にも負けへん。だからこそ、貴重な砂糖をたっぷり入れた紅茶をつくってあげる。自分の砂糖をケチってでも、隣の家から借りてきてでも、お客さんの紅茶には、砂糖をたっぷり入れる。

「ホダータ・シーニ・エカック・ダーラー・テー・エカック・ハダンナ(砂糖がたっぷり入った紅茶をつくってきて)」っていう言葉が、「四字熟語」みたいになってますわ(ちょっと長いけど)。

そして、ここまで読んだらわかったでしょ。この砂糖へのこだわりが、糖尿病をもたらしているんですわ。いまスリランカでは、長年培ってきた「甘い紅茶文化」から脱皮し、新しい「甘くない紅茶文化」を模索しているんですって。

僕も、京都人になる前は、コテコテのスリランカ人。日本に来たてのときは、甘い紅茶を毎日飲んでました。

そのころは、味がついてないウーロン茶を買って飲む日本人の神経が、理解できへんかった。甘いからこそ、高いお金(100円ちょっとのものですけど)を出す価値があるんちゃうんか? そんな、ほとんど水みたいな飲み物に、なんで金を出すねん?って感じでしたわ。

自然のものを愛する国・日本。なるべく添加物の入っていない飲み物を選ぶのは、当然のこと。いまではよく理解できます。

はっきりと味がついている飲み物しか飲まなかった僕も、いまなんの迷いもなく、お茶や水を買って飲んでます。京都の薄味が当たり前になって、他所でご飯を食べると、味が濃いな~って感じるくらいですわ。

僕の診断結果、血糖値は正常でした。クレー先生も、もうすぐスリランカに帰ります。朝晩のウォーキングや食事療法で、血糖値のコントロールに成功。健康な身体を取り戻せそうです。

糖尿病は恐ろしい。でも、スリランカの人が甘い紅茶を飲めなくなるのも、なんだか寂しいです。

それでもスリランカに行けば、みなさんには砂糖たっぷりの紅茶が出てくるはず。どうかそのときは、日本からのお客さんに注いだ、たっぷりの甘い愛情を、受けとってあげてくださいね。

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