つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

05 友との再会 【にしゃんた こらむ】

この前、警察署から電話がかかってきたんです。知り合いの刑事さんが、「にしゃんた君、ちょっと頼みたいことがあんねんけど、来てくれへんか」ってね。特に用事も無かったんで、用件も聞かずに、じゃあ明日行きますわってことになって。

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次の日、駅に行ったらパトカーが待機しててね。署に着いたら、その刑事さん、玄関で待ってはるんですよ。僕が来るのを。警察って怖いイメージがあったんで、その日はなんかえらい優しいされて、気持ち悪いような、しっくりこないような。
僕、空手四段なんですね。だから、それまでも警察の人に「怖~い」って言われることもあったりして。でも、それにしても優しいんですよ。
署で初めて、用件を聞かされたんですわ。
「にしゃんた君、忙しい時すまんな~。実は、2日前にある人を捕まえてんけど、その人、スリランカ人なのよ。ほんで、通訳をして欲しいんやけど」
そこまで来て、別に「いや!」って言う理由もないんで、引き受けたんです。
僕の母語はシンハラ語なんですけどね。日本ではシンハラ語の通訳、貴重なんです。念のために言っておきますけど、母国語ではないですよ。母語です。英語で言うとmother tongue。スリランカには色んな言葉がありましてね。シンハラ語の他には、タミル語を母語とする人がいたり、英語を母語とする人がいたりと……。また脱線してますが、まあ、僕にとっても初めての体験だったので、ドキドキしながら、そのスリランカ人に面会したんですわ。

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次の瞬間、固まっちゃいました。連れやったんです、そのスリランカ人。京都で日本語学校に通ってた時分に知り合ったんですけどね。14年前の話ですわ。入学した時、同じスリランカ出身の子がいたんで、すごく嬉かったんですよ。聞いたら、生まれた村まで一緒やってね。でも、喜んだのもつかの間。学校始まって2週間も経たんうちに、彼は来いひんようになったんです。ばりばり寂しかったですね。
その後、僕は日本語学校に2年通って、大学に行ったりしたんですけど、彼には一度も会えなかったんです。こんな所で会うなんて、偶然もいいとこやないですか。刑事さんに許可をもろて、14年間のつもる話をさせてもらいました。本当はあかんねんけどね。

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彼は、お金を貯めて親孝行をするために日本に来たんです。日本語学校を飛び出してしばらく、超過滞在をしながら仕事をしていたらしい。物価の高いこの国で、日本語学校なんか通ってたら、お金貯まるはずないって思ったらしいですわ。彼も僕と一緒で、借金をして日本に来たんですね。僕の場合は、親父が家を担保にしただけですけど(だけですってことはないけど)、彼の場合はヒトサマからお金を借りたんです。せやから、どうしても早く返したかった。
彼が見つけた職場は、その昔、被差別部落やった地域にあるんです。動物の解体で有名やったらしい。時代が変わり、今は自動車の解体で有名になってるんです。そこで彼は一生懸命働いて、なんと20人の従業員を率いる会社社長になってたんですよ。自動車解体会社。中古車を解体したり、海外に輸出したり。日本人の女性と結婚して、お子さんも二人いて、すんごい幸せな家庭生活を送ってるんです。ちなみに月収300万円!すごいでしょう。
その彼にかけられた容疑は、「不法就労助長罪」。就労ビザを持たないスリランカの子が、食べる物にも困って、彼を頼ってきたらしい。僕らと同じように「ジャパニーズドリーム」を抱いて。その子に、住む所と仕事を与えてやったのが、今回の罪。

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面白かったんが、警察の人って、僕のことを「先生」と呼ぶんですよ。ほいで、連れのことは「お前」ですわ。でも、その「先生」がですよ。月収3万円弱の大学の非常勤講師やないですか。今でもちっこいちっこい部屋に住んでるやないですか。家庭を持つ甲斐性なんか無いし、親に仕送りの一つも出来へんのですよ。反面、「お前」呼ばわりの連れは、スリランカではヒーローなんです。日本で成功を手にした人として、知らない人はいないってくらいにね。選挙に立候補する予定もあるらしい。同じ村の出身やから、二人はよく比較されるんです。情けない話ですけど。
僕って、ほら、一応超過滞在とかしてないやないですか。日本という国家からすれば、僕は優等生なんです。でも、取り調べを受ける連れを見て、僕ってただの根性無しではないかって思ったんですね。制度を破ることが出来へん根性無し。家を担保にして、家族を連れて日本に来て、制度によって日本を追いやられた連れが沢山いてますからね。そのことが頭をよぎったりして。
< p>取調室での僕は、無力で、ただただ、通訳をするしかなかってんけど、ヒーローの連れに心から敬礼するぞって感じでした。海の魚のように、空の鳥のように、自由に国境なんか越えちゃいたい。そんなことを感じた出来事でした。

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結局、僕の連れは「日本人の配偶者」であるということで、罰金を支払って釈放されました。

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