つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

09 ご馳走 それよりバナナ食べたい 【にしゃんた こらむ】

僕は去年の暮れから、スリランカに帰省しています。ちょっと集中して、研究論文を書こうというのが目的ですわ。
京都におったら、夜遊びの誘惑に勝たれへん。スリランカの静かな夜やったら、誰も邪魔せえへんやろと思いまして。一念発起ですわ。
てなわけで、今回は故郷スリランカのお話を。

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スリランカに帰って一番大変なのは、食べ物ですわ。ほんまに辛いんです、スリランカ料理って。
京都の優しいお味に慣れているので、いきなりあんな辛いもん食べたら、体中がビックリしてまいますわ。口も辛い、胃も辛い、お尻も辛い、あちこち辛い!
水も油断して飲んではいかんのです。僕はスリランカ人やけど、国に帰っても、現地の水は飲みません。ミネラルウォーターしか口にしないんです。衛生的な日本の生活に馴染んでしまっているからですわ。昔のように現地の水を飲んだら、たちまちピーピーです。

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食べ物の辛さに涙を流しながら、街を散歩していたある日のこと。一軒のお店が僕の目に飛び込んできましてね。
それは日本でも有名な、チキンのファーストフード店。それを見た瞬間、「なっつかしー」って、走るように店の中に入っていったんです。店の雰囲気は日本と何一つ変わらへん。
「やっと辛くない食事ができるわぁ!」
僕はすっかり嬉しくなって、注文をしようとカウンターに向かっていったんです。

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でも、メニューを見てビックリ。なんと日本の値段とほぼ同じやったんです。スリランカと日本の物価の差は、十倍以上違うんですわ。スリランカのランチ代は約六十円。日本だと約千円ぐらいでしょう。それやのに、日本と同じ値段で客が来るのか!? 思わずキョロキョロ店内を見回しましたわ。
そんな疑問とは裏腹に、店内では結構多くの人が食事をしているんですね。でも、しばらくすると、日本のファーストフードの感覚とは違うちゅうことがわかってきた。日本では早く食べたい時、安くあげたい時、少しお腹が空いた時、ファーストフードを利用すると思うんですけど、スリランカでは違うんですね。みんな、よそ行きの服を着て、家族全員かしこまって食べているんですよ。
スリランカではファーストフードは高級料理なんですね。聞いてみたら、お客さんたちはスリランカでも裕福な家庭の人たちでね。三ヵ月に一度ぐらいの割合で、"リッチな外食"としてここを利用してるらしくて。
「きっと僕の両親はここで食事をしたことがないやろな」。そんな考えが、頭をよぎったりしてね。チキンを頬張りながら、ちょっと切なくなってしまいました。
僕がスリランカに帰ることを誰よりも楽しみにしているのは、うちのおかんですわ。どんだけ大人なっても、おかんにとっては、いつまでたっても子供やないですか。何年かにいっぺんしか帰らへん僕を、おかんは玉のように可愛がってくれる。飼うてた犬には噛まれましたけど。
家にいたら、服の洗濯したり、スリランカで流行の服を買うてくれたりと、身の回りの事を全部やってくれる勢いですわ。「痩せた」だの、「顔色が悪い」だの言いながら。黒いのにわかるんかいなと思いますけどね。
特に気を使ってくれるのが、やっぱり食べ物です。僕、スリランカで高校生やった頃、ラグビーの選手やったんですね。その頃はエネルギー源として、よう生卵を飲んでいたんです。でも、それは若かりし頃の話。高校生やから出来たのであって、今では気持ち悪うてよう出来まへんわ。でもうちのおかん、今でも帰るたんびに、近所の農家から100個近くの新鮮な卵を調達してくれるんですね。おかん、嬉しいけど、それは無理やで。なんぼなんでも。

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それはともかく、僕にとって最大の問題は、やっぱり辛さですわ。その悩みを親父に打ち明けたら、おかんに辛さを抑えるように言うてくれましてね。そうなると、さあ何が出てくるのかなって、ワクワクしてきまして。子供の頃食べていたおかんの手料理を想像するだけで、涎が出るでしょう。しかも辛さ控えめ。夕食の時間、満を持して、食卓に並んだ料理を見てみると・・・・・・。
あれー、なんじゃ、これは???
ってビックリしたんですわ。頭の中、ハテナでいっぱいって感じですかね。
食材はなんと、ハムやソーセージ、ベーコンなどの、いわゆる保存食。しかも冷凍の輸入物。
最近、スリランカでは海外貿易が盛んになりまして。冷凍施設も充実しはじめたから、とにかく輸入物が多い。一般の家庭にも浸透してきているんですね。新鮮な肉や魚、野菜も簡単に手に入るんですよ。でも、輸入物は高級感があるということで、ありがたがられているんですわ。そんなんは日本でいつも食べているわけですよ。貧乏学生の僕でも。かなりショックでした。しょうがないから、デザートに賭けることにしたんです。

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ほしたら、またもや「ガーン」ですわ。「美味しいよ」と、お墨付きで登場したんが、リンゴやったんです。常夏のスリランカでは、採れるはずの無い果物ですわ。実家の庭には、天然無農薬の果物がたくさんできているんですよ。せやのに、わざわざ輸入物の、馬鹿高い、農薬まみれリンゴを買うてきたみたいなんですね。
これはもちろん、久しぶりに帰ってきた息子に喜んでもらおうという、両親の愛情表現なんですけどね。でも、でも、「こんなんより、バナナが食べたいよ」と思わず言うてしまいました。
スリランカならではの、天然&新鮮さを求める僕がいて。高級品に憧れて、輸入物の冷凍保存食品を食卓に並べる両親がいて。これって、やっぱり悲しいですね。
僕は、庭で採れるバナナの素晴らしさを、忘れて欲しくないなって思いました。

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