つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

15 Woman その2 おしんの罪 【にしゃんた こらむ】

僕は今年で32歳です。いや~早かったですわ。もうちょいしたら、日本とスリランカで過ごした期間が、同じ長さになるんです。

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スリランカに帰ると、学校の寮で育ったからか、クラスメイトに会いたい気持ちがめっちゃ大きいんです。周りの連れはみんな結婚してて、お子さんも大きい。すっかり太って、もうおっさんですわ。
彼らに会うと、一番正しい年の取り方はどれなんやろう? っていつも思う。

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ちょっと焦ったりすることはあっても、自分ではある程度、まだ結婚していない自分に納得しているんです。しかし、親はそうは行かない。32歳になっても結婚していない僕を見て、いつも心配そうにしてます。
僕は、スリランカに帰る日時を前もって知らせなかったり、帰ったら帰ったで、実家のあるキャンディーを避けて、コロンボ辺りを泊まり歩くことが多く、「実家に帰りなさい!」ってよく怒られる。
帰宅しない一番の理由は、お見合いの話を持ってこられるからなんです。スリランカの女性と結婚した方が、スリランカに住む可能性がぐんと上がると思っているんですわ。でも、お見合いに積極的なのは、本当はおかんだけでして。親父は別の意見をもってるんです。
親父は、どっちかと言うと、日本人の女性と結婚して欲しいそうです。「日本は素晴らしい女性ばっかりやのに、何で結婚せえへんのや?」とよく言われる。親父が力説している姿を見て、おかんは意味もわからず首をかしげてる。

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スリランカの人々が日本について持っているイメージは、やや時代遅れやったりするんですわ。特に女性についてのイメージがそう。うちの親父がその代表選手ってことになるんです。「今は全然ちゃうねんって!」って説明しても、なかなか納得せーへん。完全に思い込んではります。
原因は『おしん』なんです。

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知らん人も多いやろうけど、外国では今でもすごい人気がある、古い日本のテレビドラマですわ。子供の頃は僕も大ファンで、毎週楽しみにしてました。同じ週一回の「日本の折り紙」っていう15分番組も好きやってんけど、「おしん」の方がもっと好きやった。「おしん」の放送時間になると、テレビがあった僕の家に近所の人もようさん集まって、皆で固唾を飲んで見てた思い出がありますわ。
スリランカでは、このドラマがいまだに放送されているんです。おそらく、始まって二十年近く経ってると思いますわ。何度も再放送をして、最初は日本語で喋っていたおしんちゃんが、最近帰ったときは、シンハラ語で喋ってました。何か変な感じやったわ。

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「おしん」って、経済大国になる前の、貧しい日本が描かれているやないですか。このドラマがスリランカだけではなく、世界中で受け入れられているのは、貧しい日本を見て、「私たちもきっとそのうちに経済成長するぞ!」って、皆が希望を持てるからやと思いますわ。
このドラマの中で一番人気なのは、子ども時代のおしんちゃん。着物を着てて、いたって素朴。おっとりした仕草。化粧なんかもちろんしてへん。働きもんで、一生懸命。それに、涙もろくて笑顔がすんごくかわいい。

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スリランカは女性が強いことで世界的に有名ですわ。一夫多妻制いう言葉を聞いたことがあるでしょう。昔のスリランカは、一夫多妻ならぬ一妻多夫制やったらしいですわ。
ちなみに世界初の女性首相が誕生したんもスリランカ。現在は、首相も大統領も女性。最高学府のコロンボ大学も、女性が学長。国立大学の半数以上が女性学長ですわ。
経済も女性によって支えられています。長い間外貨稼ぎの代表品であった、紅茶・ゴム・ココナツ(三大プランテーション)は、90%が女性によって栽培されてきました。1997年以降、政府が工業化に力を入れてきて、輸出に占める工業製品の比率が農作物を上回った。それでも女性によって支えられているのに変わりありません。国内数ヶ所にある自由貿易特区の工員は、99%が女性です。
外貨稼ぎの手段として、海外への出稼ぎもあんねんけど、これも大半が女性なんです。中近東でハウスメードとして雇われるケースが多いですわ。
さらには、反政府ゲリラ組織LTTE。インドのラジヴ・ガンディ元首相などの大物を、次々と暗殺してきたんは、ほとんどが女性兵士なんです。
ほんま、男はおされっぱなし。もちろん身近な所では、うちのおかんもなかなかの人。
そんなわけで、親父らスリランカの男性諸君は、日本のおしんちゃんが「理想の女性」っちゅうことになるんですわ。

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そんな親父も、ついに真実を知る日がやってましてね。僕がスリランカに一時帰国していた時の話ですわ。
スリランカの実家に遊びに来た日本人の連れ。今ではどこにでもいる、茶髪、ガングロ、厚底サンダルにへそ出しルックの、いわゆるコギャルですわ(逆に今はおらんか・・・)。

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僕の連れが来るという情報を入手した親父は、初めて会う「生の日本人女性」に胸を弾ませてました。水力発電のスリランカでは停電が多いこともあって、懐中電灯に新しい電池を入れたりして。万全な体制で待ち受けていたんです。
連れが実家にやってきたのは夜でして。案の定停電中でした。その連れを見るなり、親父は大きな懐中電灯で彼女の顔を照らしだし、矢継ぎ早に質問を浴びせました。
「どうして色が黒いんだ?」
「どうして眉毛がないんだ?」
「本当に日本人か?」
連れが眩しがり、恥ずかしがっていることなんか、お構いなしですわ。
質問はまだまだ続く。
「仕事はなんですか?」
「フリーターです」
「何それ?」
挙句の果てには錯乱気味に
「おしんじゃない!!」
思わず笑ろてしまいましたわ。

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こんな形で日本理解の大きな一歩を踏み出した親父。その日を境に、僕の結婚問題には触れなくなりました。
それでも、親父の中で「おしん神話」は終わりそうにない。おしんちゃんを演じていた小林綾子さんが、僕にとっては立命館大学の一年下の後輩であることとか、彼女が結婚されたこととかは、今だに信じてもらえません。

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