つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

16 にしゃんたの武士道 その1 【にしゃんた こらむ】

スリランカでは格闘技がものすごい人気なんですわ。街を歩けば、道場のチラシやポスターがうじゃうじゃしてますわ。上から何枚も重ねて貼ってあったりして。生徒の取り合いも、格闘技らしく激しいんです。

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映画館も、男性客を集めるためには、Hな映画か格闘技の映画かというぐらい。特にカンフーが流行っててね。僕らが最も憧れたのが、ブルース・リー。少ないお小遣いをコツコツ貯めて、彼の映画を見に行ったもんです。
映画館からの帰りは、もちろん身も心もブルース・リー。強いカンフーマンになりきって歩いてましたね。落ち着いた佇まい。まっすぐ前を見つめて歩く。カンフーウォークって呼んでました。

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カンフーごっこ、流行りましたね。
まずは身なりから入る。
ダブダブのズボンにカンフーシューズ(または軽いスニーカー)。カバンは、背中に来るようクロスさせて。学校の制服も、そんな感じにアレンジしている子が結構いましたわ。
ヌンチャクも作りました。
見よう見まねで振り回して、ようおかんに怒られました。自分の頭や肘に当てて、こぶを作ったりしてね。

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男子校だったのもあって、喧嘩に勝つにはカンフーを習うのが一番と思い込んでました。
そこで、スリランカのカンフークラスに連れらと通いましたわ。でも、何ヵ月たっても技を教えてくれる気配が無くて…。股割のような柔軟体操ばっかりですわ。
早くブルース・リーと同じ動きが出来るようになりたいのに、それでは面白いはずないですやん。月謝も割と高めで、お小遣いも続かなかったのですぐにやめちゃいました。
今から考えると、格闘技好きの子を騙して、お金を荒稼ぎする悪い先生が多かったように思いますわ。

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そんな僕が日本行きのチケットを手に入れた時、もちろん一番の夢は日本の大学へ入学することやったけど、格闘技を本場で習う事が出来るというのも大きな魅力やったんです。
スリランカでは、日本イコール格闘技というイメージがあるんですわ。小さい時に、柔道の金メダリスト山下泰裕選手の映画も見たことあります。黒帯に憧れましたわ。
実を言うと、映画で華麗に舞う我らが格闘の神様、ブルース・リーは日本人だと信じてたんです。神さまの国へ行くんだと、連れにも自慢しまくりました。連れからすると、それが何よりも羨ましかったみたい。
今でも「ブルース・リーの国」から帰国する僕は、警戒されるんですわ。ほんで、神様のカンフーを教えてくれって集まってきよる。
帰るたびに困ってしまいます。

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日本に来たものの、日々の生活だけでも大変で、しばらくは格闘技はお預け状態やったんです。大学に入学した頃になって、運命的な出会いをしたんですわ。
新聞の配達ルートに、空手道場があることに気付いてね。毎日通る道ではあってんけど、お金がないので道場の月謝が心配。それに何よりも外国人を入れてくれるか不安やったんで、ずっと入る勇気がなかったんですわ。
ある日、配達が早めに終わったんで、誰もいない練習時間前の道場を、こっそり覗いてたんですね。しばらくすると、一人のおじさんが現れたんです。スラリとした、何処にでもいそうなそのおじさん。僕に話しかけてきたんですわ。
実はこの人が道場の先生でしてね。もっと大きな、見るからに強そうな人が先生やと思っていたので、意外やった。

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「一度練習においで」という先生の言葉に甘えて、恐る恐る参加してみました。それで、この先生がめちゃくちゃ強い人だと知ったんです。
若い頃は周りに恐れられて、空手のナショナルチームで活躍されていたそうですわ。先生より体の大きな僕が気合いでぶつかっていっても、軽くかわされ、痛い目に。
僕は自然と先生のことを誰よりも尊敬するようになり、弟子入りさせてもらったんです。驚いたことに、先生は僕から一度も月謝を受け取りませんでした。
「一人で学費を稼いで日本で生活している君から月謝を取ることはできない。お金はいいから、子どもたちと仲良く遊んでやってくれ」
と言ってくれはった。
学費と生活費でギリギリの生活をしている僕には、何よりも救われる言葉やったんです。
空手家としての強さだけではなくて、その人間性に打たれたんですわ。

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練習が終わった後にしてくれる話も大好きやった。よく覚えているのは、人を差別してはいけないという話ですわ。
弟子入りした頃は、日本に来て三年目。日本語もわかるようになってきた。自分自身が、出身国や肌の色で差別されていることをちょこちょこ感じ始めていたんです。
先生の話を聞くたび、強くなれたし、つらくても乗り越えようと思えた。

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最初は、すぐに先生の技を習得して、技術的にも人間的にも先生のような人になれると思ってたんやけど、一緒にいればいるほど、先生が遠くなっているような気がする。
それは成長して自分の未熟さに気付き始めたからやと思う。いつになったら先生に近づけるのやろうか。

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