つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

29 それを食べたい 【にしゃんた こらむ】

4月から山口県立大学で働き始めた僕。採用されるときに「大学で何かしていただけることはありますか?」と尋ねられたんです。いろいろ調べてみると、この大学には空手部がないことがわかりまして。
僕はスリランカにおるころから、空手をやってましてね。剛柔流という流派。全国空手道連盟の四段を持ってるんですわ。指導員と審判員の免許も取得してます。
お世話になってる山口県立大学の安渓先生も「ここは元々、女子大じゃったけん。いまでも圧倒的に女子の数が多いじゃけん。男子学生が女性パワーに圧倒されているけん。その意味でも空手部をつくって欲しいけん」ってなことを僕に言いはりましてね。
そんなこんなで、空手部をつくろうっちゅうことになったんですわ。

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僕の所属している国際文化学部は、一学年95人くらい。入学オリエンテーションのとき一年生たちに、一緒に空手やらへん?って呼びかけましてね。そしたらなんと40人もの生徒が空手部に入部してくれたんですわ。
僕、肌が黒いでしょ。この大学の教員としては、多分初めてなんですわ。そんな僕が、語学ならともかく、経済学を教えてて、しかも空手部までつくってもうた。学生たちも、何じゃこいつ!って感じで、かなり注目してくれたんです。地元の新聞も、四紙が紹介してくれまして。もの珍しさも後押しになったみたい。
学部長にも、教員歓迎パーティーで「にしゃんた君、本当にありがとう。感謝しています」って言うてもらえてね。プレッシャーも感じるけど、嬉しいですわ。

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でも、すべてが上手くいってるわけではないんです。大学でクラブをつくろうと思たら、申請が必要です。
学生が持ってきた「クラブ申請用紙」に、監督としてハンコを押して、提出したんです。そしたら、数日後に学生部長から電話がかかってきまして。
「にしゃんた君、いまから研究室に行かせて貰っていいかしら」
「そんな申し訳ない。僕の方から行きます」
「いやいや、私の方から」
数分後、学生部長が僕の研究室にやってきて、えらいきまり悪そうに言うんです。
「にしゃんた君、ごめんなさい。学長からクレームがあって……」
「クレーム? 何に対してですか?」
「空手部のことなんだけど・・・」
「へ? 何でですの?」
どうも話を聞くと、新任教員の僕がいきなりクラブの監督をやるのはけしからん!って怒ってはるらしいんです。ほんで、提出した空手部設立の申請用紙には、赤ペンでびっしりとチェックされてるんですわ。
それを読んで、腹を抱えて笑いましたわ。
なんと「空手部は女子学生と身体の接触があるので、セクハラになりかねない」ってなことが書いてあるんです。

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なんぼ女性好きな僕でも、身体に触れたいがために空手部をつくるという発想は、さすがにありませんでした。うちの学長先生、おもろい発想をする人やなぁって感心しました。
「僕もそこまで女性に飢えているわけではないので、そうおっしゃるのであれば、何ぼでも身を引かせてもらいます。せやけど、空手をやりたいって集まってくれた学生の夢を壊すのは、いかがなものでしょうか?」ってなことを言うたら、何とか活動は認めてもらえることになりました。
でも、正式なクラブとしての認可はお預け。クラブとして出る活動費はもらえないことになりまして。これは痛いですわ。
でも、集まってくれた学生たちには、空手の素晴らしさを伝えていきたいと思ってます。日本の文化を解って欲しい。文武両道を極めて欲しい。そんな大げさにならんでも、みんなが楽しく集まれる場をつくりたい。
これから大変ですわ。いままで僕が通ってた大学の空手部には歴史と伝統があったけど、ここではそれを、イチから築いていかなあかんのやから。

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教授会がながびいたりして、しばらく道場に顔を出さないでいると、空手部員が阿波踊りでも踊ってるように見えたりします。女子が多いから、型にも「切れ」がない。
「踊りちゃうねん! 殴る・受ける・蹴る・攻撃する! これは喧嘩や! やらないとやられるで!」
いつも叫んでまわってます。僕の講義に出ている空手部員に対しても、態度が変わってきますわ。
「空手部! 声、小っちゃいぞ!」
「空手部! 予習せーよ!」
……そんな感じ。
早いとこ、試合に出れるようになると嬉しいですね。思う存分暴れてほしい。僕に空手を教えてくれた荒賀先生が、子どもたちにいつも言うてましたわ。
「型が出来てなくてもよろしい。試合では思い残すことなく暴れなさい」
その言葉があったから、日本に何の基盤も無い僕も、一本芯を持って、自信を持って、生きてこられたと思ってるんです。それを僕の空手部員たちにも伝えたい。世界で暴れる精神を教えたい。

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そしてもうひとつ。山口一の繁華街・湯田温泉。僕はそこによく飲みに行きます。湯田で飲んでたら、誰かに絡まれるかもしれないですね。
そのときは、空手部員たちよ! 飛んで来てくれ!
たとえ相手が自衛隊でもやくざでも、ビシッと仁王立ちして、迎え撃ってくれ!
……いや、これは別に「にしゃんた親衛隊」を結成しようってことではないですよ。仲間を大切に思う心を養って欲しい、ちゅうことですねん。人が道端で死んでても素通りするようないまの日本やからこそ、他人を本気で思いやる気持ちを空手を通して掴んでくれってことですわ。

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空手部の練習、月曜日は町の公民館で行うようにしてます。地元の人に無料で開放して、子供も大人も大歓迎。あらゆる枠組みを取っ払うのが、僕のもうひとつの仕事。こんなに大きな大学やのに、地域住民には何の接点も無いっちゅうのは、寂しいですわ。
関西で養った軽いノリも最大限に活かしつつ、あちこちでぶつかる「見えない壁」を、正拳突きでぶち破っていきたいと思ってます。押忍。

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