31 結婚したくなっちゃった 【にしゃんた こらむ】
日本に来たことで、タイミングを逃したことが結構多いような気がするんです。たとえば、いまだに、車の免許証を持ってへん。二十歳前後のころは、車にも興味があってんけど、お金も無いし、それどころやなかったんですわ。
その他もろもろあるんやけど、いちばん大きいのは、やっぱり結婚ですね。
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スリランカは貞操観念が高い国。結婚するまで、セックスなんかしちゃいかんのです。男女がお互いを知り尽くしたければ、それは結婚しかない。なもんで、僕の連れには、高校を卒業してすぐに結婚した奴もぎょうさんいてます。いまでは独身なんか一人もいない。
スリランカに帰って、久しぶりに連れらと会うと、もう人生の三分の二が終わったみたいな風貌をしてますわ。いわゆる、「おっさん」ですね。大きなお腹に、禿げた頭。いや、スリランカでは、禿げたからってどうってこと無いんですけどね。日本みたいにモテなくなるっちゅうことはない。
僕もスリランカに残ってたら、幸せに結婚していたんちゃうんかなって思います。いまごろたくさんの子供に囲まれて、パパをしていたに違いない。
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異性と深くおつきあいする機会は、スリランカの場合まだまだ少ない。男の子であれ、女の子であれ、独身の間は厳しく行動チェックされます。ほとんど24時間体制。
もちろん、少しずつ恋愛結婚も増えてきているけど、それでも見合いが多い。仲人を商売にしている人が、年ごろになった地元の若い連中をくっつけてまわるんです。「良い子がいんねんけど」ってな話を、親の耳に入れてまわるわけですわ。
一方、評判の悪い子を紹介するときは、プロの技で上手くほめてあげる。これ、なかなかいい商売らしいです。
良い子と悪い子の基準ってのは、社会的に地位のある家庭で生まれたかどうかってことなんですけど、その他に、お酒を呑まないとか煙草吸わへんとかってのも高評価につながります。
スリランカでは、新聞に結婚相手募集の広告を出すのが一般的なんですが、
「私はイイトコロのハンサムな男性です。煙草も、酒も呑みません。真面目な会社員です。私にふさわしい、清楚でイイトコロの女性を募集しています」
ってな文言をよう見かけます。
でも、いちばん重要視されるのは、異性遊び。結婚相手が初めての異性である、ということが美得なんです。
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自分の子供を、異性を知らない「良い子」として評価してもらうために、親は必死なんですけどね。スリランカがおもろいのは、地域社会が親にものすごく協力してくれるんですわ。せやから周りがみんな監視役なんで、悪いことなんかできまへん。
昔、スリランカで高校生やったころ、連れが彼女とホテルに行きましてね。そしたらいきなりホテルの管理人に取り押さえられて、通ってる学校の校長先生とそれぞれの両親に電話を入れられたんです。ホテルに大勢の人間が集まってきてね。身柄を引き渡されてましたわ。
僕も昔、当時つきあっていた日本人の彼女とスリランカに行ったことがありましてね。いかにスリランカの若者が苦労しながら恋愛しているか、思い知らされました。
コロンボのYMCAに行ったときのこと。そこのレストランに彼女と二人で入った。日本では当たり前の話やけど、いろんな種類のメニューを頼んで、二人で分けあって食べたんです。ほんで、僕が自分のスプーンで、「あーん」とか言いながら彼女に食べさせてあげた。
次の瞬間、それまで眠そうに座ってた管理人が血相変えて飛んできて、
「ここでは汚らわしいことをやめて欲しい!」って怒鳴られました。
国立公園を案内したときも、歩き疲れてお互いの肩に寄りかかりながら休んだんですわ。そしたら、公園の監視員が飛んできて、引き離されました。
そんな調子やから、人前だと気が休まらないんで、宿泊する場所を探そうっちゅうことになってね。安いゲストハウスに入ったんです。そしたら管理人のおばちゃんに「あなた達は独身か?」ってきかれて。ついうっかり「そうです」って言うてもうた。そしたら、「私にもあなたと同じぐらいの子供がいる。未婚の男女を泊めることはできない」って追い返されました。
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こんなに恋愛しにくい国やけど、僕の連れはみんな結婚して、子供ぎょうさんつくって幸せにしてますわ。ホテルで彼女とイチャイチャしていたら、強制的に結婚させられた奴もいます。まあ、幸せそうやけどね。
監視の目が厳しいなか、若者が利用するデートスポットは、映画館なんです。後ろの席はカップルで埋め尽くされてますわ。映画が始まって暗くなったとたんに、キスしたりなんだりで、忙しくなるわけです。スリランカの映画館では、途中で休憩が入るんやけど、そのときに急いで服をなおす若者の姿を見ると、ちょっと可哀そうやね。
ただ、ハードルが高い分、日本の若者よりも密度の高い恋愛をしているような気もするけどね。
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恋愛が自由な日本では、僕の連れはみんな独身。離婚したり、婚約破棄した奴もいる。自由恋愛は、必ずしも男女を幸せにしないかもしれへんね。
僕もいまだに独りです。おかんはモテない息子が心配で、眠れないらしい。孫を産んでくれた7歳年下の妹に集中することで、どら息子のことを忘れようとしている。おかん、ほんまごめん。
最近、ものすごーく、結婚したいんです。ここ2週間ぐらいのことですけどね。もちろん、いままでも結婚が頭をよぎったこともあります。でもそのときは、相手の女性が好きで結婚したいんか、それとも別の要因が働いてんのか、判断しきれへんかった。
というのは、日本人の女性と結婚すると、難しいビザの更新作業から解放されるんです。僕が結婚したいと思ったとき、いつもそのことが頭をよぎりました。
「ホンマにこの娘が好きで結婚したいんやろうか? 単に日本が好きなだけちゃうんか?それやったら、この娘に申し訳ないぞ……」
それが、結婚まで踏み込めへんかったいちばんの原因やと思いますわ。自分に自信が持てへんっちゅうことですかね。
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昨日、京都の知り合いのお店でこの話をしたんです。そしたらマスターが「にしゃんた君、結婚したら結婚したで大変やぞ。日本の格言をひとつ教えてあげよう」とか言うんです。
「いいかね。男と女っていうのは、20代ではセックスでつながっていて、30代では愛情でつながっていて、40代では努力でつながっていて、50代では我慢でつながっていて、60代で、ようやく真の恋愛に気づく。だから、焦らんでよい。にしゃんた君の場合は、あと28年ある。だからゆっくり探しなさい」
いちおう聞いてはいたんですけどね。いまの僕には、マスターが言うてる「格言」の意味がようわからん。60歳で結婚した方がいいっちゅうことか? そんな悟りの境地にはちょっと達せそうもないですわ。
でもやっぱり結婚も、当分できなさそう。だって、相手がおらんもん。
誰か、いい人を紹介してください。
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