「民 際」 と 「共 生」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

33 自殺したかった人は、いま 【にしゃんた こらむj】

山口に引っ越してからも、週末はだいたい京都で過ごしてます。夜は必ず、学生時代から馴染みの、木屋町に行くんですわ。

僕がしょっちゅう通ってるお店のひとつに、ユーミンが流れるお洒落なバーがあってね。酔っ払っているせいもあるんやろうけど、歌詞の聞き取りには、いつも苦労する。友達が耳元で教えてくれたり、店長の赤崎君が歌詞カードを貸してくれたりするんですわ。ユーミンは日本の文化だそうです。とくに30~40代の人たちにとってはね。

先日も、3軒目のお店に、そのバーを選びましてね。完全に酔っ払ってるから、耳が遠くなってます。酔っ払いが大声を出すのは、それが原因ちゃうかな。遠くの方で、ユーミンの歌声だけは聞こえてた。せっかく日本の文化を学ぶチャンスやのに、もう何年もそうやって逃してきましたわ。

でも、そのときは一曲だけ、頭の片隅に残っていたんです。

次の朝、目が覚めて、その曲が頭のなかで流れはじめてね。

高いビルの上からは 街じゅうが
みんな みんな みんな
ばからしかったの
ああ 束の間 彼女はツバメになった
(作詞/作曲 松任谷由実「ツバメのように」)

自殺の歌です。
明るいテンポなんやけどね。ビルから飛び降りた友達のことを歌ってる。

この歌が、昔の友達を思い出させたんです。

学生時代、僕の憧れのひとつに「ねるとん」
っていうのがありましてね。テレビで毎週放送していて、毎回楽しみにしてたんです。自分も出てみたいなぁ、なんて思ってまして。

そのチャンスは、突然やってきました。親友のアメリカ人が働いているお店で、定期的に「ねるとんパーティー」が開催されていて、僕も参加できることになったんです。張り切って出掛けましたよ。

集ったお客さんは20人程度やった。ちょっとショックやったのが、男女の配分。女性は5人だけで、あとはみんな男やったんです。サクラで来た女の子もいたみたい。僕が期待していた「ねるとん」とは程遠い。

男性諸君が数少ない女性を囲み、ブサイクな戦いをしている。不慣れもあってどう会話に参加すればいいかもわからへん。結局僕は、高い会費を飲み食いで回収する決意を固めました。女性を横目に、ひたすら食べ続ける。

食べ物をかき集めるのに夢中になって、そのときたくさんの男性に囲まれて、楽しく会話をしていたある女性の足を蹴ってしまったんです。

「どうもすみません。ごめんなさい」
「いえ、いえ。日本語が上手ですね」
「ありがとうございます」

やっと、会話のきっかけをつかめました。
でも10分も経たないうちに、
「それでは、気にいった相手のお名前を書いて、こちらの箱に入れてくださ~い!」

僕はもちろん、彼女の名前を書いた。他の女性とは、挨拶もできへんかったし。

たらふく食べたし、日本の文化も学んだ。
まんぞくまんぞく。そう思って帰る準備をしていると、

「カップルが成立しました。にしゃんたさんとヨリコちゃん! おめでとうございます」

10分ぐらいしか話できなかったのに、何故かそういうことになりまして。もちろん、ほんまにカップルになったわけではないけれど、ヨリコちゃんとはそれがきっかけで、よく話をするようになってね。

僕と彼女は、年がほとんど同じ。いつも笑顔なんやけど、言いはることはマイナス志向でね。どこか頼りなく映るんです。

「会社に行きたくないなぁ」
「自殺したいな、ってよく思うの」
しょっちゅう、そんな話をするんです。

僕も話をあわせようと、
「誰だって、そう思うことはありますよね」
って言うてた。

ヨリちゃんと知り合ってから、僕は変な夢を見るようになってね。なんと、僕が自殺する夢なんですわ。

5年前、三条大橋と四条大橋の間に、パリのポン・デ・サールっちゅう橋を模したものをつくろうっていう計画があったんです。その幻の橋が、夢の舞台。

遺書には「日本で前が見えなくなったから」とか書き残してね。これまで知り合った大勢の人の名刺を、フランス橋の上に綺麗に並べるんです。「こんなにたくさんの人を知っているのに、僕は日本が大好きやのに、日本は僕を受け入れてくれない。っていうか、ビザがもらえない」とか言いながらね。

何故か、橋の上に大勢の記者が集まっていてね。自殺する前に記者会見をするんですわ。「日本に来た留学生が、日本に絶望して死を選びました。どうです。いいネタでしょう?」

たぶん深刻な夢なんやろうと思うけど、なんとなく笑えるのが、僕らしい。

こんな夢を、毎晩続けて見るようになったんです。

ヨリちゃんからは、頻繁に電話がかかってくる。そのうち、仕事しているはずの昼間にも電話してくるようになったんですわ。

「仕事、大丈夫ですか」って尋ねると「会社休んだの。会社に行く気ない」って言うんです。それでも僕はずっと、「そういうことって、ありますよね」って言い続けてきた。

夢を見はじめてから、1週間が経とうとするころ。
「もう会社に耐えられない。私は自殺することにした」
ヨリちゃんはついに言ってしまった。

「阿保か~~~~~~~~~~~~~!!」

次の瞬間、僕は、無意識のうちに叫んでました。彼女は真剣に自殺を考えていた。やっと気づいた。

僕は、気に入られようと、適当に話をあわしてた。その責任を追求されているような気がしたんです。そこから約1時間、仁王立ちでヨリちゃんに説教をしてました。

「絶対に、自分で命を絶ったりしてはいけない。人は一生懸命に生きていかないといけない。自殺はルール違反です!」
必死に叫んでしまいましたわ。その甲斐あってかどうかはわからへんけど、ヨリちゃんは自殺を思いとどまりました。

その日を境に、僕のヘンテコな夢は終わりを告げた。そして、ヨリちゃんとの付き合いも。連絡が取れなくなったんです。

僕も忙しさにまぎれて、彼女のことは思い出さないようになっていった。きっと、どこかで生きていてくれる。そう信じながら。

そして昨日。偶然にもヨリちゃんを見かけたんです。もう、ビックリしましたわ。急いで駆け寄ると、隣に素敵な男性が立っていてね。
「旦那です」
「どうもはじめまして……」

お似合のカップルやった。しかも、ヨリちゃんのお腹には赤ちゃんがいたんです。
なんと言うか、感無量ですわ。

僕はヨリちゃんに、いろんなことを教わりました。人は孤独であるってこと。だけど、支えあうことができるってこと。

ヨリちゃん。今度一緒に、ユーミンが流れるバーに行きましょう。もちろん、生まれてくる赤ちゃんも連れて。

コメントする

所属事務所

 (株)インナースケッチ

innersketch.jpg

http://www.inner-sketch.com/

TEL:06-6886-1175
FAX:06-6886-1176

お問合せフォームはこちら

2010年9月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30