35 体温を感じるアジア経済を教えたい 【にしゃんた こらむ】
僕が山口の大学で担当しているのは経済学。マイ研究室には、「国際経済論―研究室」って書いてあります。「これ、誰の部屋なんやろう?」って一瞬考えてしまうけど、周りを確認しても、僕の部屋に間違いない。
さて、2つのゼミに加え、「経済論」と「アジアの経済」という講義を受け持った前期課程は、先日無事に終了しました。
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「経済論」は、経済学入門。マクロ経済やらミクロ経済やらの基礎を教えています。もちろん、気合十分に教えていますが、やっぱり力が入るのは、「アジアの経済」ですわ。
戦後のアジア経済が、日本を中心に成長してきたという歴史。日本を追って経済成長を遂げてきた、NIESやASEAN諸国の頑張り。そして、タイミングを逃し、成長に乗り遅れた南アジア諸国の現状。日本が儲かり続け、第三世界の国が貧しくなり続けてしまう経済構造。あまり注目されへんかったアジア経済やけど、これからは重要でっせ。
僕としては、経済の理論ばっかりを喋るんじゃなくて、感覚として経済をわかってほしい。母国スリランカで暮らす人々の視点を大事にしたい。それが、僕を次世代に経済を教える立場に選んでくれた、この日本への恩がえしやと思ってます。せやから「物」の行き来だけではなく、「人」の行き来を大事にしながら、講義を進めていくことにしました。
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コムズカシイ話をして、生徒を退屈させてしまうのは、僕のポリシーに反します。何とかオモロイ講義をしたい。そこで思いついたんが、ビデオを使った講義ですわ。
日本語学校の同級生が、関西で自動車解体の仕事をしている。密入国した奴とか、ビザを持っていない奴もおる。いつ捕まるかわからない。それでも、一所懸命に働いている。そんな現状を学生に伝えて、考えてもらいたいと思いましてね。同級生に無理を言うて、ビデオをまわさせてもらったんです。
そこには、油まみれになって、「きつい・汚い・危険」の3K労働に従事しているアジア各国の人がたくさん映っている。日本人の代わりにやっとるわけですわ。狭い家に何人も一緒に住んで、生活費を切り詰めている。少しでも多く、故郷の家族に仕送りしようと頑張ってはる。
社会保障なんかない。保険証も持ってないから、病院にも行けずに身体を悪くする。ちょっとショッキングな内容やけど、連れが綺麗に編集してくれました。張り切って、学生に見せてみたんです。
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上映終了後、感想を求めた。日本の大学生は、ほとんど喋らないことで世界的に有名。半分諦めていたときに、一人が手を挙げた。
しかし、ちょっとホッとしたのも束の間。
「日本は住みにくいって言いながら、なんで日本にいるんですか?」
……結構、ショックでした。
ここは入国管理局でもなんでもありません。発言したのは、日本の国家公務員の方とは違いまっせ。間違いなく、ハタチ前後の普通の大学生。ちなみに所属は国際文化学部。
半年間、アジア諸国の現状や経済的に貧しい人々の思いを具体的に伝えてきたつもりやったのに、どうも伝わってなかったみたい。僕はその翌週、1時間30分の講義時間を全部使って、「外国人は嫌やったら帰るべきか、それとも外国人が暮らしやすい環境を整えるべきか」をお題に、ディベートすることにしました。
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学生みんなが椅子を持って、輪を作りました。僕の構想では、50人の学生が半分ぐらいずつに別れて、意見を戦わせるはずでした。普通そう思うでしょ?
いざ、開始。フタを開けてビックリ。ディベートは50対1。1は他ならぬ、教員の僕。日本人はまだまだ保守的な考え方の人が多いけど、若者の間にはグローバルな考え方をする子が増えてきている。そう思っていたんやけど(あなたもそう思ってたでしょ?)、どうも違ったみたい。アセりましたわ。
学生たちは、「外国人が増えると犯罪が増える」ってことを、一番心配しているみたい。それは日本の受け入れ態勢に問題があると思うんやけど、納得してくれませんわ。
それに、まだ外国人を一人の「人間」として接する力がないみたい。どうしても「国」で捕らえるんですわ。その人の個性はお構いなしで、「アメリカ人は安心」とか、「スリランカ人はアヤシイ」とかね。これまで日本人以外の人間をほとんど見たことないから、しゃーないのかもしれへんね。
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ディベートの最後。苦しい立場に追い込まれた僕は、言葉を返しました。
「あなたたちが、日本に文句を言う外国人はサッサと帰ったらええやんか! というメンタリティーで卒業していくのであれば、間違っても『国際文化学部卒』とは言うてほしくないです」
圧倒的不利の情勢から、この言葉で逆転できたかどうか、まだわからへんけどね。
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