「民 際」 と 「共 生」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

41 僕はだれか 【にしゃんた こらむ】

連れに、安里君ってのがおるんです。彼は沖縄出身、自分はウチナンチュウか、それともヤマトンチュウかってことで、よく悩んでるみたい。よく考えたら、スリランカがセイロンからスリランカに切り替わった1971年、ちょうどその年に沖縄も本土に返還されたんですから、悩むのもなんとなく分からんでもない。彼は京都の暮らしがなじめず、1年の大半をフィリピンで過ごしています。

日本に生まれながら、国籍は日本やないという人もいるし、結構たいへんそう。そして僕も、自分はどこの人かなぁって、よく悩むんです。

仲の良い連れらは、「お前は京都人や」「日本人や」って言うてくれる。いまでは、日本人の連れのほうが、スリランカ人の連れより多い。それこそ、北海道から沖縄まで、そこらじゅうに友達がいます。稼ぎも少なく、親への仕送りを一切しない「どら息子」の僕ですが、唯一の財産が彼らですわ。

去年の同時多発テロ。京都のブラジルレストランで、大好きなフェージョアーダーを食べながら、たらふくビールを飲んでいるときに、それは起こりました。

僕は酔っ払って、ぼーっとテレビの画面を見てた。世界でこれから何が起きようとしているのか、不安でしばらくテレビの前から離れられへんかった。

あんまり想像したくないですけど、僕があの飛行機に乗っていたら、恐ろしいですね。もちろん死ぬのも恐ろしいんやけど、それよりも僕の安否情報。日本人の連れらには絶対に伝わらへんやろなぁ。

日本の国籍を持たない僕は、いつの間にかいなくなってしまう存在なんです。それが恐ろしいですわ。

僕がスリランカに戻るとき、その目的はだいたい調査活動なんですわ。でもスリランカで待っている親に言わせると、とんでもない話。僕にとっては「一時的にスリランカに行く」なんですけど、親にとっては「息子の帰国」なんです。

前に「写真の一枚でも送ってくれよ」って、何ひとつ仕送りをしない僕に両親がリクエストをしてきたんです。それで、ご要望どおりに日本で撮った写真をまとめて、小包で送ったんですわ。

スリランカでは、海外から荷物が届くと、港まで取りに行かなあかんのですわ。「港に荷物が届いています」ってチラシを見た親父は、大型トラックを運転手付きで借りて、港まで行ったんですって。

……ようやく、息子が家電製品やら車やらを送ってきよったと思ったみたい。「日本に出稼ぎに行ったスリランカ人」ならば、常識的な行動なんですけどね。でも僕は「出稼ぎ」のために日本で暮らしているわけやない。

小包のなかの写真を見て、「全身の力が抜けた」らしいですわ。いや、申し訳ないとは思います。

けど、リクエスト通りやねんけどなぁ。

スリランカに「行った」ときの話。コロンボに着いた僕は、実家へ電話を掛けてみた。受話器からは女性の声が。

「オカン?」
「違います。誰ですか?」
「え? 妹?」
「違います。あなた誰?」
「……そこは、ミスター・ジャヤシンハのお宅ですか?」
「お答えできません。それより、あなたは誰?」
「誰って、ジャヤシンハ家の一人息子なんですけど」
「そんなはずない。ふざけないで」

っていうか、オカンでも妹でもないお前こそ誰やねん! そこは、ジャヤシンハの家か? さっさと答えろや!!

……思わず怒鳴ってしまいました。

実家の電話番号のはずやのに、僕のことが通じない。僕に黙って、引越したんやろうか?それとも、親に何かあったんやろうか?自分のアイデンティティに不安のある僕は、めちゃくちゃ心細くなってもうたんですわ。

翌日、同じ電話番号に掛けてみたら、今度はオカンが出てくれました。どうやら、前の日まで家を留守にしていて、新しいお手伝いさんに留守番をお願いしていたらしい。電話が掛かってきても、相手が知り合いの人でないと、絶対に家のことをしゃべらないことにしてたんですって。

怒鳴ってしまって、お手伝いさんには申し訳なかったけど、親が僕を捨ててないことが分かってものすごい安心感があったんですわ。

「日本人」、「京都人」として認められたい僕が、ジャヤシンハ家の人間やったことを確認して安心するのは、矛盾ですよね。

でも、その話には続きがありましてね。実家にたどり着いた僕は、門をそっと開けました。次の瞬間、ジャヤシンハ家の犬さんに、お尻をがぶりって噛まれてしまったじゃないですか。

スリランカでは象さんも飼うけど、犬さんも飼います。日本より、番犬の位置づけが強い。知らない人に吠えたり、噛みついたりしない犬さんは役立たずなので、大事にされない。それを知ってか、犬さんは番犬を頑張るんです。

注射を含めて、全治3週間の怪我は痛かった。でも、その事件は「お前はもう、ジャヤシンハ家の人間じゃない」って教えてくれたような気もしたんですわ。どこか寂しかったのもあってんけど、「京都で頑張りや」って神様が言うてくれたんかも知れんなぁって。

まあ、言いたいのは、国籍では何もわからへんってことですわ。僕は、スリランカ人どころかジャヤシンハ家の人でもないってこと。何やったらジャヤシンハ家の犬さんが証言してくれます。ほんまに聞きに行って、噛まれないようにね。

「私は誰であるか」なんて本人が決めることですよね。クドイようかもしれへんけど、僕は京都人ですねん。

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