つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

49 関西弁を操るスリランカ人の僕 【にしゃんた こらむ】

スリランカで日本語の特訓をしたころが懐かしいですわ。1から10までの数の数え方と、簡単な挨拶を覚えたんです。日本へ連れていく子を選抜するための、ボーイスカウトの面接試験では、「僕は日本語ができます」なんて自己PRしましてね。

「では日本語で『星』は何というんだね?」
って質問には
「すみません。それだけは知りません」
って答えて、面接官に苦笑いされた。まるで昨日のことのように思い出されます。

日本で日本語学校に通うまでは、まわりが何を喋っているやら、サッパリですわ。デパートをうろちょろしていたときに、「いらっしゃいませ」って言われてね。それは日本語の挨拶やろうと思って「いらっしゃいませ」って返したこともあった。

僕の場合、言葉を覚える感覚っていうのは、知らない単語が1つずつ減っていって、知っている単語が増えていって、隙間を埋めていくっていう感じなんです。

「お久しぶりですね」って声をかけられたとしますわね。その段階では、日本語学校では「久しぶり」の意味しか習ってへん。頭に「お」をつけるのはまだなんです。そうすると、お手上げですわ。

ちょっと日本語が分かってきてからも、変な誤解が多い。たとえば、自分のことを「この人」って言われるのと「この方」って言われるのを比べたとき。同じ意味やと知っていても、「方(かた)」って発音がキツく感じたので、僕は馬鹿にされたような気がして、嫌いやった。実際には逆やのにね。

でも、言葉がわからないと、別の感覚が発達しますね。言葉の裏で、相手がどう思っているか。表情を読んだり、仕草を読んだり、その辺は得意ですね。

そうは言っても、日本の人はポーカーフェイスで困りました。日本の国技だと聞いて、相撲をよく見てたんです。でも、試合終了後の両力士の表情が同じやから、試合のルールがわからへん。どっちが勝ったんや……?

それから、日本人は、分かりやすく伝えようとするあまり、言葉の意味を取り違えてしまうこともありますね。数年前に、京都市が発行している広報誌のインタビューを受けたことがあります。「京都市基本構想等審議会」という会議に参加したので、その感想を聞かれたんですわ。

「僕は母語が日本語ではないので、議論を完全に理解することはできなかったのですが、スリランカ出身の僕が、京都市民としてこのような会議に参加できたということは、大きな進歩だと思います」ってなことを言うた。

そしたら、編集者に困ったことを言われましてね。「にしゃんた君。一般市民は『母語』って言われてもわからん。『母国語』にしてほしい」
……無茶を言うでしょ。

「いや、ふたつの言葉の意味は全然違います。間違った情報をいつまでも流すのはやめて、この際、正しましょう。『母語』でお願いします」

アメリカかって、母国語が英語って決まってないですよ。ニューヨークに住んでいる住民は、全員が英語を喋るわけではない。オカンが喋っとった言葉が大事なんです。英語で言うたら、"Mother Tongue"。ひとつの国にひとつの言葉しかない、そんなことありえへん。日本だっていまやそうなんです。

シンハラ語とかタミル語とか英語とか、スリランカではさまざまな言葉が話されています。僕が子供のころ、テレビはチャンネルがひとつしかなかったんやけど、時間帯で言語をかえて放送してましたわ。6時にはタミル語のニュース、8時にはシンハラ語、9時には英語のニュースってね。

僕が通っていた全寮制の男子学校では、毎週月曜日の一コマ目は全校集会。そこでは、みんながわかるように、教員たちが3つの言葉で喋っていた。授業や試験も、何語で受けるか、選択できたんです。

でも日本では、国語と外国語に分けるでしょう。僕の連れに、安部君って子がいまして。中国残留日本人孤児の三世なんです。国籍は日本やけど、日本に帰ってきてわずか5年。中国語の方が得意なんです。それでも、大学の試験は日本語で行われる。外国語の試験だけ、中国語を選ぶことができたんです。不利な条件のせいで、2回目の受験にしてやっと合格。これが差別でなくて、何やねん?

外見で、その人の言葉を判断したらあかん。何を隠そうこの僕にもひと悶着ありました。ちなみに、僕の母語はシンハラ語、のはず。

先日、多言語放送ラジオ局のDJにならへんかって誘われ、面接に行ってきたんですわ。シンハラ語を担当していた人が、都合で辞めたらしい。まわりからは、何の疑いもなく「にしゃんたしかおらへんやん」って言われていた。

でも、面接と翻訳、頑張ったんやけど、結果は失格。まわりは怒ってね。ラジオ局に苦情の電話を掛けそうになってた。でも、その理由がわかると、みんな腹を抱えて笑ったんです。

「こちらとしても、是非にしゃんたさんに、と思っていたのですが、あまりにもシンハラ語が下手なので、落とすしかなかった」ですって。そら笑うわ。

スリランカの母校に遊びに行ったときも、昔の恩師に「お前、いつから同性愛の道を歩みはじめたん?」とか、「お前、出家したん?」とか言われましてね。

日本語のトーンでシンハラ語を喋ると、同性愛者か坊さんみたいに聞こえるらしい。僕は母語のシンハラ後が上手く喋れんようになってもうたみたいですわ。

日本語の勉強を頑張りすぎたのかな? さすがにいまの状況はマズイので、オカンに定期的に電話しようと思ってますわ。母語を思い出すし、親孝行にもなるしね。

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