「民 際」 と 「共 生」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

54 にしゃんたの京都ひとり歩きその1岩清水八幡宮・男山の竹 【にしゃんた こらむ】

大学教員になって1年目の講義が終わりました。発展途上国のスリランカからやって来た僕が、経済大国・日本の学生たちに経済を教えるのって、やっぱり落ち着きませんでしたわ。教員1年生ってこともあって、徹夜の講義予習が続いたんです。

そんなわけで、ちょっと骨休みをしたいと思いましてね。住み慣れた京都をひとり歩きすることにしたんですわ。

そんなわけではじまった新テーマ、「にしゃんたの京都ひとり歩き」。このエッセイのなかで、不定期にお届けしていきます。

御幸町御池の自宅から徒歩5分の、京阪三条駅。そこから、大阪方面の電車に乗る。降りた駅は、「八幡」。今日の目的地は、岩清水八幡宮。前々から、一度お参りしたいと思ってたんですわ。

「歩いても良いけど、ケーブルやったらすぐですよ」って、駅の観光案内所のおばあちゃんが教えてくれはった。言葉どおり、ケーブルカーを降りて5分も歩けば、山頂でした。

「岩清水八幡宮は、全国の八幡神社のなかでも、重要な地位を占めていると言われとるんや」とは、ケーブルカーで偶然居合わせた年配の男性の弁。全国に4万ヶ所もある「八幡神社」のなかでも、3本の指に入るらしい。

神社にも、家紋と同じような印がついていましてね。社紋というそうなんですが、岩清水八幡宮の社紋は、橘と3つの巴ですわ。岩清水を橘で表現してまして、尻尾が長い左回りの巴は、八幡宮を意味するんだそうです。神主の伊藤さんが教えてくれはりました。

神社には当たり前にあると思っていた、手をたたく前に鳴らす「鈴」はありませんでした。これ、神様をお呼びするために鳴らすものなんだそうですが、八幡ではわざわざ鳴らさんでも、神様が常駐してるんですって。

僕がここでいちばんオモロイと感じたんは、五角形の絵馬でした。合格祈願の絵馬なんですけど、そこに描かれていたのは、なぜか「白人」のおじさんの顔。

なんとそれは、発明王のトーマス・エジソン……なんでやねん?

それだけやなくてね。なんと、エジソンの記念碑まであったんですわ。碑石の中央には、"Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration(天才とは、1%のひらめきと99%の努力 )── Thomas Alva Edison" と刻まれてました。

エジソンと八幡の接点は? 当然のごとく湧き上がってきた疑問を、神主の伊藤さんにきいてみると、彼が発明した「白熱灯炭素電球」に、その秘密があるらしい。

1879年、エジソンは光電球の実験に取り組んでました。この実験で使用されたフィラメントの材料は、木綿の縫い糸にすすとタールを塗りつけて、炭化させたもの。だけど、それは40時間しか輝き続けることができず、実用化にはほど遠い状況だったそうですわ。

エジソンは20人の科学者を世界各地に派遣し、フィラメントの材料に、何と6000種以上の植物繊維を試してみたんです。でも、成果はさっぱり。

そんなある日、たまたま実験室にあった「扇子」が目にとまったらしい。竹をほぐし、ひご状にして炭化させ、実験に使ってみると、素晴らしい結果が得られたんです。

エジソンは、助手を日本に派遣し、ついに最高の素材「やわたの竹」を手に入れました。炭化した男山の真竹でつくったフィラメントは、1000時間も輝き続けたんですって。

その後、タングスティンのフィラメントが出回るまで、八幡や嵯峨野の真竹が大量に輸出されました。年間2~3千万個の電球が、世界中の夜を照らす夢の光として輝いたそうです。

冬は、時間がたつのが早いですね。暗くなってきたころ、急いで山を降りました。

男山の真竹が生みだした白熱灯。発見と工夫が積み重ねられた科学技術は、やがて日本にも大量消費の物質文明をもたらしました。

そのひとつの結果が、男山を下りて、5分も車を走らせたところにありました。関西一の自動車解体現場、通称「ポンコツ街道」。買い替えや事故で使われなくなった自動車を解体してパーツを売りさばいたり、外国に流したりしているんですわ。

騒音や油の匂いが立ちこもるスクラップ場。解体の仕事に関わっている人たちは、ずいぶん国際化しています。京都では、これほど多国籍な人々を他で見ることはできません。日本人なら誰もやらへんきつい仕事を、外国人労働者が引き受けてるんですわ。

エジソンが男山で使った真竹は、もうほとんど生えてないんです。いまでは、生命力の強い孟宗竹しか見当たらない。来るべき物質文明のシンボルだった真竹は、自然界の競争に負けたんですわ。

「逆肉強食」の国になった日本。
その真実が、「竹」を通して見えたように感じました。

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