56 にしゃんたのグルメな夜 【にしゃんた こらむ】
僕はあるグルメ番組の司会をやらせていただいているんですよ。
「みなさんこんにちは! 司会のにしゃんたです。この番組では、京都を旅するみなさんにナイトライフを楽しんでいただくための、素敵なお店情報をご提供します!」
ちょっと珍しいでしょ? 昼間に観光するイメージの強い京都ですが、この番組では、美味しい夕食とお酒を楽しめるお店を紹介しているんですわ(ちなみにもちろん、NHKではありません)。
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でも、「グルメ」とは縁もゆかりもない僕。司会をしませんか?とのお誘いがあったときは、正直ビックリしましたよ。スリランカにいたころは、オカンに甘えるか、学校の食堂でとにかく量を食べることしか能がない。日本に来てからも、「食べ放題」に行ってひたすら食い尽くすことしかやってへんからね。
最初のころのロケは、思い出すだけで恐ろしい。そもそも、出てくる食材の名前がわからん。しゃーないから、「すみません、こちらは何ですか?」と聞くと「○○と○○の○○風○○と○○ソースの○○仕立て、どす」とくるわけ。
生まれて初めて耳にする食材と調理方法が、複雑に絡み合う、摩訶不思議な料理名。それを瞬時に理解してリアクションする。
……ハイ、もちろん、不可能です。
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「山椒」と「七味」の味の違いもわからんかった僕をなんで起用したか。製作スタッフに尋ねると、「にしゃんたは、コメントはたいしたことなくても、ほんまに美味しそうに食べる。あの表情は、日本人にはできへん。視聴者にわかりやすい」ですって。
ありがたい話です。でも良いことばかりではなくてね。すぐ顔に出ちゃう僕の場合、本当に美味しくないものは、「おいし~い!」ってコメントしながらも、顔はめっちゃマズそうやったりするみたい。
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番組でいろんな経験をしましたよ。あるお店では、ロケ中にめっちゃ無愛想にされたんですわ。もっと仲良くなりたいと思ってね、「また、プライベートで来ますわ」って言うたんです。そしたら、「ああ、そんなん結構です」って言われてもうたんです。
これはショック! 何か僕に落ち度があったかいなと思って、恐る恐る「すみません、普通やったら、是非って言ってくれると思いますけど……」って聞いた。そしたらそこのマスター、「京都はイケズですねん」。
これが京都ですわ。不景気でお店が次々に閉めているなかで、この余裕。京都はやっぱり僕にとっては、女性みたいなもの。つれなくされると、追っかけたくなる。慣れない人には、なかなか理解できへんでしょうけど。
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でもね、悩みもあるんです。それは、この仕事をしてると金銭感覚が狂う、ってこと。
初めて日本に来たころ。お金がまったくなかった僕は、旅館でアルバイトをしてました。いちおうまかないも出してくれはったんやけどね。最初のころは食わず嫌いが続いたんですわ。茶碗蒸しとか、お刺身とかは、気持ちわる~って思ってましたね。納豆とか豆腐とかは、不気味としか言いようがない。もう、色からしてアウトですわ。食べているところを想像するだけでも気持ち悪かった。
ラグビーで鍛えぬいた体が、見る見るうちに痩せていく。気がついたら10キロ減。しゃーないから、値段の安い牛乳とか生卵でしのいでたんです。
そんな僕がいまや、番組のロケとはいえ、「最初の一杯目は五千円のバー」とかに行くんですよ。ふたりで食べて飲んで2万円があたりまえ……この額って、スリランカの親父の給料の半分です。最近では、芸者さんやら舞妓さんやらを呼んで、2時間ぐらい遊んで、ひとりあたり5万円は安いよね~、ってなことをほざいている自分が怖い。
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この番組で訪れてから、すっかり常連になったお店もあるんですわ。おばんざいの美味しいお店。小さいけど、京都らしく坪庭があったりして、いい感じ。僕はいつもカウンターに座ります。
ここのお店を取材したときに、最後に自分が言うたコメントは、いまでも覚えています。
「母の味を思い出します」
思わず出た言葉ですわ。
僕は、カリーとライスばっかり食べていたんで、もちろんオカンに日本のおばんざいなんかつくってもらったことないです。でも、食材は違っても、料理方法は違っても、伝わってくるものが一緒やったんですわ。
というわけで、
おばんざい万歳!
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