61 野菜は海を越えたらいかん 【にしゃんた こらむ】
スリランカは常夏の国。年末年始になると若干気温が下がるんやけど、たいした変化はない。季節がないんですわ。僕が日本に来たすぐのころ、Autumn、Winter、なんてわざわざ英語に訳して説明してくださった方々! すみません! あのときは、なに言うてんのかさっぱりわかりませんでした。
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季節の話で忘れたらあかんのは、食ですわ。京都の料理は、ほんま、芸術やと思います。盛りつけがあまりに美しいから、箸もつけられんと、固まっとる自分に気づいたりします。器も、お見事。料理をひきたたせ、季節感を表す。いまの季節やと、打ち水をした坪庭を眺めながら、信楽の涼しそうな器で食事をいただく。やっぱ、芸術やわ。
もちろん、食材も四季折々。器のなかを見たら、旬のものがわかる。自然と一体ですね。とくに、京都は野菜が豊富。京たけのこ、伏見とうがらし、加茂なす、山科なす、鹿ヶ谷かぼちゃ、桃山みょうが、堀川ごぼう、九条ねぎ、聖護院かぶ、聖護院だいこん、中堂寺だいこん、壬生菜……あかん、書いてたらヨダレが出てきた。
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僕が住んでいる御池から5分も歩けば、錦市場ですわ。京都の台所と言われるこの市場、ぶらっと散歩すると、たくさんの旬の食材に出会えます。現在、日本で栽培されている野菜は160種類。フランスが130種類、アメリカが100種類と言われてますから、いかに日本が野菜大好きな国なのかわかりますね。
野菜の名前を覚えようと努力している僕は、時間があったらスーパーに出かけるんですわ。でもスーパーには、時期的にあるはずのない野菜が並んでますね。これ、だいたい輸入品。日本で消費されている野菜の4分の1近くを輸入しているんですって。
「開発輸入」といいましてね。日本の業者さんが、日本で食べられている野菜の種を持って行って、外国の安い労賃でつくらせる。そして、日本の旬が終わったころをねらって持って帰ってくる。たとえばブロッコリー、中国から輸入しているらしいですわ。中国の友達に電話で聞いたら、中国人は、ブロッコリーなんか食べへんらしい。
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「フードマイル」っていう言葉、知ってます? 食卓の食べ物が、どれだけ遠くから運ばれてきたかを表しているんですわ(僕、いちおう経済学者なもんで……)。ちなみに、計算式は(食料輸入量)×(輸出国から輸入国までの距離)。
日本のフードマイルは5000億トン・km。韓国の1500億トン・kmやアメリカの1400億トン・kmと比べても、ダントツです。
この数値が高いと、さまざまな問題を引き起こします。二酸化炭素排出による地球温暖化とか、長い移動距離を持たせるための、農薬の問題とか。そのなかでも僕がいちばん心配しているのは、文化を壊すことなんです。
野菜をつくらせている国の文化も壊すし、さらには日本の食文化も壊す行為やと思うんですよ。
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最近はほとんど見られなくなったけど、京都には野菜売りの名人がいてましてね。大原女とか、白川女とかって呼ばれる人たち。農産物や加工品をリアカーに入れて、京都の町のなかに売りに来はるんです。まだ夜が明けないころから町に出かけてきてね。春には菜の花漬、冬には自家製すぐき漬ってな具合に、旬のモノを売って歩かはるんです。
この前、祇園で偶然会った、70代の大原女のお母さん。もう50年のキャリアをお持ちやってね。昔は大原と祇園の間を、往復で20kmも30kmも歩いてはった。草履は一日で履きつぶれる。
「祇園もお得意さんがずいぶん減ってしもて。なんや寂しいわあ」ですって。
フードマイルが、とんでもない距離に伸びて、日本人があまり旬の食材とか、地元の食材とかにこだわらへんようになってしまったからね。でもやっぱり、フードマイルは大原女さんたちが一日かけて歩けるぐらいが、いちばんいいと思いますわ。現代人は、歩くのもしんどいやろうけど。
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