「民 際」 と 「共 生」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

63 にしゃんたの京都ひとり歩き 2 寺町通り・匂いに誘われて歩く 【にしゃんた こらむ】

日本の空港に着くと、醤油の匂いがするっていう人がいます。最近はスリランカでも醤油が売られていたりしますが、僕が日本に旅立ったころは、そんなもん見たこともなかったですわ。せやから、初めて日本に着いたとき、醤油の匂いがしたかどうかなんて、わかるはずもない。

でも、いまでは日本独特の匂いを、ずいぶんかぎ分けられるようになりました。

長年住んでいる京都は、いろんな匂いを楽しませてくれます。西陣をチャリでうろちょろしてますと、千本格子の間から「生糸」の匂いがする。なんか、甘いような、すっぱいような……。僕の大好きな匂いです。

五条坂から熊野神社にかけては、焼き物の窯元が集中していますよね。いまは電気釜やから、薪の匂いはせーへんけど、土の香りを楽しめます。

僕が住んでいる御幸町の、一本東側の通りが寺町通り。豊臣秀吉さんの時代、洛中に散在していた寺院をこの場所に集中させたことで、「寺町」って名前になったそうです。

寺町は、ほんまに色々な匂いを楽しめましてね。暇があればぶらぶら歩くんです。

♪丸竹夷二押小御池姉三六角蛸錦……って、京都の歌を口ずさみながら、寺町を下がる。

丸太町をから竹屋町まで来ると、パンを焼く匂いが漂ってきます。夷川の角にはお茶屋さんがあって、香ばしい匂いが楽しめますわ。昼間には、お茶を袋に詰めている音が、とんとんって響いてきて、店員さんの見事な手つきに見とれます。その斜め向かいには墨屋さんがあって、墨の匂い。上品な匂いですわ。

さらにさらに下がっていくと、姉小路の角には老舗のお香屋さん。近くには古本屋さん。もう少し下がると、昔ながらのコーヒー屋さん。どのお店も気持ちいい匂いがしますね。

三条の角にくると、京都の名産を売ってはるお店が、向かい合わせで二軒。春は竹の子、秋は松茸です。思わずため息をついてしまいますわ。

あ、ずいぶん行きすぎました。ちょっと戻って、御池通りの二本上まで。二条通が寺町にぶつかるところで、くねくねと曲がっていますが、そのあたりで、東側から甘~く香ばしい匂い。つられて向かった先には、「川越芋」のお店。おじいちゃんがひとりで切り盛りしてますわ。腰が曲がっていても、そのスピードは衰えることがない。

お芋さんひとつひとつが大きいので、いっぺんに焼ける数は限りがあります。箱から出した大きい芋を洗う。皮を包丁で剥いて、大きく切って、年季の入った鉄鍋に放り込む。木の蓋をしたかと思いきや、また芋を洗うところに戻る。休む間がない。非効率に見えるけど、それが美味しさの秘密なんでしょうね。

このおじいさん、今年でなんと87歳。まだ現役バリバリですけど、おじいさんの代で、お店をたたまはるらしい。悲しい。

この川越芋の匂い、僕にとっては、青春時代の思い出を蘇らせる匂いでもあるんです。

もう何年も前の話なんですけどね。膝を怪我して、入院していたときのこと。当時、つきあっていた彼女がいたんです。何でもお世話をしてくれる、優しい子でした。入院中は、僕のパジャマや下着を、毎日洗濯してくれるんです。すごく助かりました。

でも、入院生活が長引くうちに、次第に心が冷めてきたんでしょうかね。洗濯物を黙々と交換する彼女の行動が、少しずつ機械的になっていったんですわ。会話もほとんどなく、別れの予感……。

弱っているときって、人一倍、敏感になりますよね。彼女の温もりが感じられなくなった僕は、辛い日々をすごしていたんです。そんなとき、親友やった連れが見舞いに来てくれましてね。申し訳なさそうな顔をして突き出したのが、新聞紙に包まれた、あの焼き芋なんです。

新聞紙って保温効果抜群ですよね。30分以上経っているのに、まだほっかほか。お金のなかった連れが、精一杯考えてくれたお土産なんでしょうね。それを両手でもって口に含んだときに、思わず目頭が熱くなったのを覚えています。

優しかった彼女には、残念ながら振られてしまいました。でも、焼き芋を持ってきてくれた連れは、いまも大切な親友なんです。

いまでは、立派に仕事をこなすお金持ちになってます。でも、忙しさに翻弄されて、ずいぶん弱っているようです。そんな彼に持っていく僕のお土産は、いつも「焼き芋」って決まっています。

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