「民 際」 と 「共 生」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

68 岡本さんの地蔵盆 【にしゃんた こらむ】

大文字の送り火が済むころ。京都の街のあちこちに、「延命地蔵大菩薩」って書いた赤い提灯がぶら下がります。他所ではあまり知られていない大切な行事。「地蔵盆」です。

関西限定らしいので、ご存じない方も多いでしょう。ひとことで言うなら、子供のお祭りですわ。町内総出で、お地蔵さんを飾りつけして、その前で子供たちが、お菓子をもらったり、ゲームをしたり。8月の23~25日くらいに行われることが多いようです。

23日には僕も朝早くに、近くの革堂行願寺に集合しました。それから町内会の椅子やら、地蔵盆飾りセットなんかをお地蔵さんのところまで運ぶんです。肌が黒いと力持ちに見えるのか、重い荷物運びを一手に引き受ける羽目に……。

それから、お地蔵さんの飾りつけです。綺麗に拭き掃除をして、周りの木にロープをかける。お地蔵さんの前のスペースには、日陰ができるようにテントを張ります。そして、赤い提灯をぶら下げるんです。

その提灯、表には「延命地蔵大菩薩」って書いてあんねんけど、裏には、町内の子供たちの名前が、ひとりひとり書かれてます。みんなで箱のなかからひとつずつ提灯を出して、「もうこの子は、大きいなってるわ」とか「この前、結婚しはった」とか、大人になった子の提灯を選り分けます。現役の子供の提灯だけ、お地蔵さんの前に飾るんです。

自分の名前が書かれた大きな赤い提灯。何だか気恥ずかしいけど、やっぱりうれしいんでしょうね。用もないのに町内の子供たちが顔を出してくる。「まだかな、まだかな」。そんな胸の内が聞こえてきそうです。

あっちの子もこっちの子も、待ちきれない顔で提灯を眺める。大人たちも、ノスタルジックに浸って、ウットリ顔。

町内でいちばんの仲良し、岡本さんに話を聞きました。

「岡本さん。どうやったんですか? 子供の時分」
「地蔵盆かいな。僕らのころ、腹いっぱいお菓子を食べれたのは、地蔵盆だけやった。よく地蔵盆のハシゴをしてましたわ。えへへ」

嬉しそうな顔で喋らはる。要するに、お菓子をくれるもんやから、自分の町内だけやなくて、あちこちの町内会を渡り歩いていたらしいんですわ。まぁ、この日ばかりは、そんないたずら坊主にも、カミナリは落ちなかったらしい。いわば日本版のハロウィンですね。
 
岡本さんは、この町内のガキ大将やったらしい。地蔵盆のために帰省してきた同級生の前だけ、しゃべり方が偉そうになる。その辺は、いまでもガキ大将です。「俺は悪い奴をやっつけただけやで!」って、眼を細めて笑わはる。

その岡本さんも、今年はふたりのお孫さんを連れてきた。子供たちと混じって、一緒にお経を聞いてましたわ。

お地蔵さんの前に並べてある、はちきれんばかりにお菓子が入った袋。岡本さんは、「俺にも袋をくれんか?」ってやや本気。「これは子供だけや。恥ずかしいな」奥さんにたしなめられて照れてたけど、どうやら真剣にお菓子袋がほしかったみたい。表情は不満でしたわ。

空手八段のダンディーな岡本さん。毎日、祇園でハシゴしてはる。最近は、お医者さんに止められて大人しくしているけど、ハシゴの原点の地蔵盆は、いつまでも岡本さん心に残っているみたいですわ。

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