つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

79 町屋を借りたぞ! 【にしゃんた こらむ】

「ちゅうか、お前、そもそもローン借りられへんぞ」

……はい?

「永住権とかないやろ?」

ビザは、『教授』ってビザねんけど。

「あかん!」

???

話は振り出しに戻ってしまいました。まったくどうしたらええんかわからへん僕に、連れがぼそっと言いました。

「買うんじゃなくて、借りたら?」

なるほど、「買う」からいろいろややこしいんやな。背に腹は代えられへん。残念やけど、そうすることにしましたわ。

大家さんと会って、借りる交渉。ひとりぶんの家賃にしてはちょっと高い。でもせっかく見つけたこの町屋。手放したくなかった。

「よろしくお願いします」。念願やった町屋暮らし、ここからスタートですわ。

鍵を貰って、すぐさま町屋グッズを集め始めました。友達が屏風に掛け軸、火鉢に長持、蓄音機に達磨コンロ、そしてボンボン時計まで持ってきてくれました。やはり持つべきものは友達! 日を追うごとに家が家らしくなって行きます。

まあ冷静に見れば、ただただ紙と木と土だけでできた、動線の悪い箱モノにすぎません。膝の悪い僕にとって畳の生活は少し思いやられる。トイレ行くのに、寝室や書斎のある2階から降りてきて、いちいち外に出なあかんなんて、朝まで我慢したくなりそう。部屋からキッチンへ行くのにも、またまたいちいち土間に降りなあかん。キッチンはお湯も出えへんし、洗い場は全面タイル張り。ガラスなんか落としたら間違いなく120%粉々です。

スリランカどころか、日本でいままで覚えてきた生活の知恵がまるで応用できへん。日本にはじめてやって来たような気すらする。これからも試行錯誤の繰り返しになりそう。

でも、この家は初めてきたとき、僕にスリランカを思い出してくれた空間です。日本人の友達も、そうじゃない友達もたくさんやってくるけど、みんな似たようなことを言う。「庭を肴に一杯やりたい」。町屋に住んだこともないのに「懐かしい」なんてことも。みんな遊びにきて、なかなか帰ろうとしない。この家には、本能的に人間の求めている幸せが凝縮されてるんかもしれへん、と思ったりするんですわ。

だから、この家には現代的なものをできるだけ近づけたくないと思ってます。ラジカセもナシ。音としてあるのは、ボンボン時計の音と、庭の手水鉢に落ちる鈴の音だけ。

せやけど、こんな京都の町屋の数は、現在わずか2,600戸と言われています。しかも一回壊しちゃうと、いまの建築法では二度と同じようなものは建てられへんらしいですわ。

日本はどういうわけか住宅ラッシュです。どこを見ても建物を壊しては建てることを繰り返してる。政府は、住宅ローンを促したりして国民の消費欲をくすぐり、経済に刺激を与えようとしています。

でも住宅の数はすでに十分すぎるほどあるってみなさん知ってはりますか。日本の住宅戸数は4588万戸。これは全世帯数を一割以上も上回っているんです。それやのに、いまでも新築住宅は依然としてもの凄い勢いで増えてます。

去年も不況やと言われながら134万戸、90人あたりに一軒、新しい家が建ちました。今年も123万戸、100人に一軒の家が建つと予想されてます。せやけど、アメリカでは180人に一軒、イギリスやドイツでは400人に一軒やから、日本の住宅建築のペースはかなり猛烈なことがわかると思います。

それから、その建てられた家の内容について。日本の家は「ウサギ小屋」なんて表現されますよね。でもよくよく調べると、それは20年ぐらい前の話。いまは決してそうじゃないんです。

現在、日本の住宅の一戸当たり面積は、持ち家で141平米。アメリカの158平米よりは少し狭いけど、ドイツの122平米、フランスの112平米、イギリスの102平米と比べると断然大きい。一方、賃貸住宅の平均は53平米で、欧米と比べるとかなり狭いけど、これは日本特有のワンルームマンションが算入されているからやと思う。 

そうすると日本はいま、質量ともに世界有数の住宅大国ですね。でも少子化傾向になっていってることを考えると、これから住宅建設需要は激減するはずですわ。これ以上、住宅戸数を増大させるのは無理。もちろん、地下鉄も道路も下水道もそう増やす必要は全くないです。そして、そのとききっと後悔すると思います。長年日本人の育んできた知恵が凝縮されているはずの「町屋」を、永遠に失ってしまったことを。

長年の夢であった京町屋。やっと住むことができました。この不思議な空間で、経済学者としてなにができるやろう? 経済性や利便性ばかりで僕たちが忘れ去っているもうひとつの合理性。無駄を省くことによって高めていく合理性ではなく、無駄があってこそ得られる精神的な豊かさを踏まえたうえでの「合理性」を追求したいと思います。

いま80歳を迎えるこの家と一緒に、時代の動いているのとは逆の方向で、その「合理性」を見つけられるかやってみたい。不動産の値段とは別の、お金とは次元の違う経済学を模索したい。

とまあこのように、来日18年目にしてやっと、僕の人生の夢である「京町屋に住む普通のおっちゃん」への第一歩を踏み出しました。今度はここで家庭をつくって、子供を育ててみたいなあって、これを書いている34歳の僕は思ったりしてるところです……うーん、いつになることやら。

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