83 スリランカでの笑い話 【にしゃんた こらむ】
この前の春休み、一週間だけスリランカに帰りました。全然仕送りしてへんことを、怒られへんかなぁと、恐る恐るですわ。今回、一緒に教え子と友達を連れて帰りまして。合計7人がスリランカの空港に降り立ちました。迎えに来たがる親には家でゆっくりしてもらうようにお願いして、現地の連れに空港まで迎えに来てもらいました。
でもやっぱり、家に着くや否や、飲めや歌えやの大騒ぎ。そんななかで、スリランカの実家に居候をしていた僕の大学の連れ(日本人)がお土産として持ってきた日本の「石鹸」の話になった。
実は以前から、親が僕にしょっちゅう国際電話をかけてきて「日本の石鹸は泡が立たないのはなぜだ?」って聞いてきたんですわ。そのたびに「いやぁ、僕が使っている日本の石鹸はよく泡立つけどなぁ。まさか、スリランカの水と日本の石鹸の相性が悪いってこともないやろうし……」って返事していんです。
「しかも、袋から出したらすぐにカビが生えて腐るんやわ」と、オカンがブツブツ文句を言う。いったい実家で何がおきとるんや? 僕にとっては、大きな謎やったんです。
そんなわけで、オカンがタンスに大事にしまっていた例の石鹸を出してきました。見た瞬間、僕はわが目を疑いましたわ。どう頑張って見ても、石鹸とは別もの。それは石鹸ではなくて、なんと『切餅』やったんです。みんなで腹を抱えて大笑いですわ。
●
今回、スリランカへの旅に同行した学生たち。出発の前に、シンハラ語を特訓してたんです。一ヶ月前から、週一回2時間程度。みんな、短期間にもかかわらず、メキメキ力をつけてくれた。
で、現地にきたんやからその腕前を早速試すことに。事件を起こしてくれたのは松田君です。自他共に認めるアガリ性。僕の両親と会うなり、「ディスイズアペン」とどもりながら挨拶してくれた。本来ならば、『アーユボーワン』(命がたくさんありますようにという意味のこもったシンハラ語の挨拶で、どんな状況でも使えて便利な言葉)を言わないといけないところ。緊張しすぎて、馴染み深い英語が口をついて出てもうた。
さて、真面目すぎるところがある僕の両親は、どうリアクションを取ればいいのかわからず、引きつっている。通訳担当の僕に、目で「なんとかせぇ!」と訴えかける。ここは正直に、「松田君はあまりにも緊張していたから、いちばんよく覚えている英語のフレーズが出てもうたみたい」と説明するしかない。それを聞いた瞬間、両親も含めてみんな大笑い。松田君も、照れが取れて大笑い。
それで味をしめたんでしょうね。スリランカ滞在中、わざと自己紹介で「ディスイズアペン」を繰り返し、緊張した空気を一瞬にして和ませるプロになってましたわ。結局、滞在中にいちばんたくさん友達をつくったのも、いちばんたくさんシンハラ語を覚えたのも、そしていちばんスリランカの女性にモテたのも、松田君やった。こうして、僕の田舎では「ディスイズアペン」が伝説になりました。
●
帰りの飛行機のなか、松田君の隣に座った僕は、ちょっと酒がまわってきたのも手伝って、日本でのある初体験を告白しました。それは、初めて日本の女性と向かい合ったときのことですわ。それはそれは、勇気がいりました。
僕は日本語学校を、一度も休んだことがない。ひとつには、日本語学校の豊国先生のことが好きやったからやけど、もうひとつ大きな理由は、通学中に会う謎の美女。
その当時、僕は路面電車で日本語学校まで通っていた。謎の美女とは、その電車のなかで会ってました。顔を合わすといつも、素敵な笑顔で笑いかけてくれる。ずっと彼女を意識してました。彼女と会えることが楽しみで、気がついたら毎日同じ電車の同じ車両に乗るよう心がけていた(いまから考えると、軽いストーカーですわ)。
彼女の笑顔が、日本に来たばかりの僕の不安を吹き飛ばしてくれていたんです。そうです、僕は、恋をしていた(うわ、照れくさ!)。でも、当時の僕はむちゃくちゃ純やった。だって、だってですよ! その年、知らない女性からもらったバレンタインチョコレートを、ほかしたりしてましたからね。不潔や!って。
僕は、彼女をデートに誘うための日本語を、一生懸命暗記しました。豊国先生が親身になって協力してくれた。暗記しだして1ヶ月。いよいよ、実践の日を迎えました。鏡の前とか、鴨川のほとりで何回も練習した日本語。しかし、いざとなると、やっぱりドモりまくる。声が震える。
「コンド・アソビニ・イキマセンカ?」
「ええ? どこどこ?」
(やったー! 彼女の表情は嬉しそう)
「キョウト・コウベ・オオサカノ・ドレカ。エランデクダサイ」
「神戸がいいな~」
「OK、コウベ。ワタシノ・トモダチト・ガールフレンドト・ボクト・アナタト。ヨニン」
「神戸のどこに連れて行ってくれるんですか?」
「ハーバーランド」
「うん」
「メリケンパーク」
「うん」
「チュウカガイ・ガイジンボチ」
よし、順調や! 心のなかで叫びながらも、震える声での説明が続く。そのとき……
「パシッ!!!!!」
「イタっ!!!」
突然、ビンタを食らいました。調子乗りすぎたのか、そもそも口説いてはいけなかったのか。理由はわかりません。結局、彼女に深々とお辞儀をして去りました。それ以来、電車の時間を変え、彼女とは二度と会いませんでした。
僕は、あのとき暗記した日本語を、いまでもちゃんと覚えています。もし彼女が、大阪、とか京都、とか答えた場合でも対応できるように、それぞれの台詞も暗記していたんです。「金閣寺がきれいですね。雪のなかの金閣寺もきれいです」ってな感じでね。
ビンタの事件があるまで、「彼女と今日も目があって、微笑んでくれた」などと逐一報告していた僕が、そのことを全く話題にしなくなった。周りがずいぶん心配してくれましたが、かたくなに沈黙し続けました。ビンタされた理由もわからず、だれに相談することもなく、時間だけが流れた。結局、独学でビンタの理由が解るまで……。
いったいなぜ僕はビンタされたのでしょう?聞きたいですか。ここまで話を引っ張っておいて言わないわけにもいけないでしょう。僕はなんと、神戸の案内する場所のひとつとして考えていた「外人墓地」を「ガイジンボッキ」って言うてしまっていたんです。
●
いや、しょうもない話でスイマセン。でも、それからというもの、失恋の後遺症っていうか、トラウマっていうか、失敗したくないという気持ちが先に出て、いいなと思う女性を目の前にすると制御不能になるんです。
ビンタの話をきいて、松田君とふたり、涙を流しながらの大笑い。今回の旅の笑い収めでした。
コメントする