つよく、優しく、しなやかに、美しく ・・・「民 際」 と 「共 生・共笑(ともえ)」 な 眼 で 世 界 の 中 の 日 本 に 思 い を は せ て ・・・

95 ねずみさんとの町家な日々 【にしゃんた こらむ】

 僕はマンション生活が長い。その僕が、京町屋に住みたいという夢が叶えられるまでは少し時間がかかりました。初めてそのお家を見せていただき、家の中庭で腰を下ろしたときのことです。なにかしら懐かしく、まるで子供の頃に引き戻されたような気持ちになりました。僕は17歳までスリランカで生活しているので日本家屋に懐かしさを感じるはずがない。僕は、二つ返事でこの家に住むことに決めた。この新居が僕にとっての日本とは何であるかを教えてくれる素敵な教科書になるとは、その時は、少しも思わなかった。
 
 なにを隠そうこの家は不便なところが満載です。例えばトイレに行くにも一旦家の外に出ないといけない。雨の日や雪の日は大変です。老朽化したお風呂はひどく水漏れをします。木造のこの家は、夏はたしかに風通りが良くひんやりしていて気持ちが良いが、冬には効率悪いと正直思う。隙間が多いので、全体を暖めようとせず、炬燵などを使って部分的に暖をとることが賢いと二,三度冬を越した頃にはいい加減に悟りました。なんだかんだ言ってもこの家が好きです。友人が遊びに来ても、庭を見ながらぽかっとしてなかなか帰らない。僕に限らず、日本人もこの家が懐かしいようです。
 
 実は、この家にはたくさんの仲間が住んでいます。霊感の強い友人によると、おばあちゃんの霊がついているようです。本当かどうかわからないのですが、今のところ何の問題も無いのできっと僕を守ってくれている良い幽霊さんにだろうと思う。実は、目に見える友達もいるのです。ゴキブリもいれば、鼠もいます。家の庭で、一生懸命に自分の尻尾をぐるぐる廻りながら追っかけているお茶目でおっちょこちょいな鼠科の動物。皆さんは教科書で勉強したかも知れませんが、僕には鼬ゴッコという言葉を鼬が全身を使って直々に教えてくれました。

 この前、しばらく留守にして久しぶりに帰宅したときの話。少しお酒を飲んでいたこともあって、一階のソファでしばらく疲れを癒していた。疲れのあまりうとうと寝てしまいそうになったその瞬間、なんと二階の屋根裏でいきなり凄い勢いで鼠が走り出したのではないか。しばらく経っても走りやむ気配はない。少し腹ただしく天井を突付いて鼠を静まり返そうと箒を持って二階に上がった。そこで起きていたとんでもない事態にびっくりしました。それは、鼠がどうのこうのっていう問題ではありませんでした。実は、僕がすっかり忘れていたのですが、その日一階のソファで横になる前に一度二階に上がっていたのです。その時、二階にあるベッドの横の電気スタンドを点けて、それを消し忘れていたみたいで、電気スタンドが布団に倒れて布団からもくもくと煙が立っていた。僕は急いで消しました。お蔭様で事態が大事には至っていなかったのでほんとうに良かったです。
 
 実は、あの鼠の大運動会は火事になりかけて家が危険にさらされていることを鼠さん達が教えてくれたのでした。そして、同居の仲間に一つ大きな義理が出来てしまった。

 僕はいつも台所の水道を捻って最初の一杯目の水を神棚に上げています。明くる日にはいつもコップの水が明らかに減っています。この家にはいろんな神様が住んでいることがあの事件が起きてからよく理解できました。それからは、水に限らず、ご飯物もお供えするべきかと思うほどです。

 最近の家は、シックハウスの問題が多いみたいです。そんな新しい家がどんどん建っているこのご時世に古民家に住んでみて、僕は古い物の良さを感じています。もちろん、天然の木と紙と土だけで出来ている我が家はシックハウスとは無縁です。ゴキブリも鼬もそして鼠さん達も心地よく生活していることがそのことを証明する何よりのバロメーターです。この家に帰れないと、ホームシックになっている僕がいます。

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